IIAS竹本修三フェロー研究会「京大地球物理学研究の百年(その3)」(2010年2月13日)


京大地球物理学研究の百年:第3回研究会総合討論
司会:廣田 勇



廣田 勇:お待たせいたしました。ただいまから今回の研究会の総合討論を始めさせていただきます。私は司会役を仰せつかりました廣田でございます。さて今日は、13時10分まで40分間というお約束で総合討論を始めます。せっかくの機会ですので多々ご意見をいただきたいと思いますが、議論が発散しないように、一応私の方で3つ議論の内容を決めまして、その順番に議論をすすめたいと考えます。最初は、今日ご講演をいただいたご三方、福田教授、余田教授、町田教授、それぞれのお話の内容に直接関連したご質問やコメントをお受けしたいと思います。それで3人の先生方にお答えいただくのが1番目。その次に、去年から2回、そして今日の3回目の議論を通して、このテーマ、あるいは、こういう視点がまだ抜けている、こういう点の議論はどうだろうかという、百年史という見地からみた議論の整合性を2番目のテーマにしたいと思います。そして3番目、これは非常に大切なことですが、百年の議論というのは、集まった内輪だけの話に終わらせないで、これからの若い世代の人々、場合によっては外部の人々、そういう方々に、ぜひ教訓として汲み取っていただきたい。そのためには3回の議論をどういう形で保存して公表していくのが適当かについて皆さんのご意見をぜひ聞かせていただきたいと思います。最初に、今日のご三方のお話に関しまして、具体的な内容に即したご質問をお願いいたします。最初の福田先生のお話についてご質問やコメント等がございましたら自由にお願いいたします。

田中寅夫:一番興味深かったというか、気になったのは、国内では福田先生のお話は非常に少数派であって、そして、世界に出たら重んじられるということを言われました。これが非常に気になりました。何故かと思って考えたら、多分、GRACEは時間的なタイミングですね。インターバル、データの間隔とスケールの狭さ・広さということが係わってきて、要するに、われわれは、日本という小さい・・・と言ったらいけませんが、地球の一部に過ぎないところに住んでいる。われわれの位置しているところは大陸と違って非常にローカルな、あるいはタイミングでは非常に短い近スケールの現象を見ている。それがGRACEの手段とうまく調和していないということであると思います。それが気になっています。GRACEはグローバルであるといわれましたけれども、そういう観点から、やはり宇宙から地球を見るということは大きな意味で大事なことで、パラダイム・シフトを実感した訳ですが、そういったことで日本のGRACEと世界のGRACEの違いを感じたということを感想として述べます。

福田洋一:どうもありがとうございました。まさにGRACEを使って日本の細かい何かを研究することは無理です。実は、GRACEの後続ミッションでそういうことができないかということがestimateされているのですが、それでもなかなか厳しいのではないかということになっております。日本に限った研究でやろうとすると、衛星で時間変化を追及するのは難しいのですが、アイデアとして、例えば、地上での重力測定で質量の時間的変化を見ていくということは考えられます。ただ、重力の方がもうちょっとがんばらないといけないんですが、それを広げるのが1つのフィールド貢献につながるのかなあと思っておりますし、そういう形で重力コミュニティが広がることを個人的には願っております。

田中:それで逆にGPSであれば、タイミングがゆっくりでも細かい話ができる。衛星を上げた頃の専門家、つまり当時の電波研の人達は、そんなもので地球の上の5cm・10cmの変化を測れるはずがないという話があったし、水沢緯度観測所の光学的緯度観測が宇宙技術にとって代わられるということになったのですが、GRACEはその逆のことを考えていたことを今日私は勉強させていただきました。 福田:いま、GPSの話がでたので、1つだけ付け加えさせていただきますが、実はいま、GPSでも質量の変化が見えるんです。要は地球が変形しますので、そのローディングの効果がGPSでも見える。これは世界的に非常に感心の高い問題で、質量変化の影響が重力だけでなくて位置の変化にも及ぶというのがいま、現実です。その補正をしないとGPSの精度も上がらないんだというのが共通の認識なんです。そういう意味では、日本のGEONETの観測でも大気や海洋の荷重変化をちゃんと追いかける非常に重要なデータなんです。重力変化とGPSは非常にストレートに繋がります。

廣田:福田さんのお話に関して、他にございませんか。

尾池和夫:大変面白い話ですが、日本列島の細かさということが、われられの考える基本的なことであり、私はいま、ジオパークに関連しておりますが、日本列島の特徴を外国の人に説明して売り出そうと思うと、地質図を描いたら四国のように10mで違うものが見えるという非常に細かいんですね。これは付加体で育ってきた日本列島の特徴だと思うのですが、それが非常に大きな第一の特徴ですね。それを規定していくということとグローバルにものを考えるというその両方が足元でできている国だと思っているので、それが非常に大事な特長だからそれを延ばしていかなければならいと思っております。衛星を使うというのは世の中の流れですからそれはどんどん発展していくと思うんですが、日本からそういう細かい構造をずっと追及してきた経験を生かして、人工衛星を使ったスペースからの観測というのはどうあるべきかという提案を日本から出していくことが必要だと思います。20年先を考えて・・・。いま私は、JAXAの議論にも参加しているのですが25年までの計画はきっちりできていますね。その後、JAXAとしては、いったいどういうことをやるべきかという議論をさかんにしているわけです。これは時間のかかる話ですから、細かい波長でこういうものを見ていくんだとか、そういうふうな観測の方からの提案というのも地球物理学教室の仕事としてぜひ考えていただきたいと思います。  それから、南極観測の話が出てきて、器械といっしょに行きたいということをおっしゃたんですが、日本の教育界の体制として、高等教育の現場で、福田先生が例えば器械とともに南極大陸に行くということが許されるのかどうか。サバティカルや法律とかいろんなことを考えてきたんですが、日本の人材の余裕みたいのが生れてこない。南極に行きたいとおっしゃるのは非常によくわかりますので、私も随分京都大学から昭和基地に送り込んだつもりなんですが、福田先生が現在の法人化した体制のなかで、行こう思ったら行ける状況がつくれるのかどうか、そのへんの実際的な教育界の実情というのをご説明いただければ、と思います。

福田:いま、GPSの話がでたので、1つだけ付け加えさせていただきますが、実はいま、GPSでも質量の変化が見えるんです。要は地球が変形しますので、そのローディングの効果がGPSでも見える。これは世界的に非常に感心の高い問題で、質量変化の影響が重力だけでなくて位置の変化にも及ぶというのがいま、現実です。その補正をしないとGPSの精度も上がらないんだというのが共通の認識なんです。そういう意味では、日本のGEONETの観測でも大気や海洋の荷重変化をちゃんと追いかける非常に重要なデータなんです。重力変化とGPSは非常にストレートに繋がります。 あと、南極に行けるかどうかということですが、数年に1回くらいそういう自由を半年くらい認めていただければ、私自身の励みになります。南極の夏隊で行くのであれば、11月に行って、早ければ2月に帰ってこられるわけですから、5年に1回くらい、そういう余裕があればいいなと思うのですが、今の教室の事情から考えると、なかなか厳しいでしょうね。

廣田:今のお話に関係して、昨年の暮れに極地研究所で南極に今度つくるレーダーのシンポジウムがありましたが、その最後の総合討論で、私は極地研の所長に、人を自由に送り込める体制をぜひつくれと、発破をかけてきました。ですから大学で個別に行くこととそういう組織体の協力の両面あろうかと考えます。  時間の都合で、それでは2番目の余田教授のお話に移りたいと思います。これについてご討論をお願いします。

尾池:科学技術の話があって、科学技術という言葉が日本ではずっと定着してしまいました。これは政府の政策のためだと思うのですが、1956年から科学技術庁ができて、それからずっと、科技庁と省略したら何か悪いような感じがして、科学技術庁が続いて、今でも科学技術政策なんですけれども、隣の中国の方はですね、もっとあっさり科学技術をいっしょにしてしまって、もう科技という言葉が独立しています。科技公園とか科技大学とかがいっぱいありますよね。最近はscitechという英語までつくって、サイテクホテルというのが北京にできていますけれど、そういうふうにまったく科学と技術を別視しない、区別しないのですね。西洋ですとscience and technologyで必ずand がついているんです。日本では科学・技術のナカポチが取れて科学技術が使われている。そのことが日本の学術の発展をものすごく阻害している面があると思うのですね。だから文科省の文書なんかでそこの考え方はscience and technologyのことを言っているんだということが国民にちゃんと伝わっていないんではないかという気がしているんです。そういう言葉が日本の科学と技術の政策のいろんなところに影響してきたということをちゃんと分析しないといけないのではないかと思っています。それで、「科技」ということとですね、「science and technology」ということと、日本の「科学技術」というナカポチを取ってしまった歴史との間を何か考えられたことがあるのか、あるいは、考えていこうとしておられるのかを参考までに教えてほしいと思います。

余田成男:いや、大きな問題ですね。日本学術振興会の学術システム研究センターの仕事に何年か係ってきて、そういう中でいろんな人の影響を受けているのですが、一番強かったのは石井紫郎先生の影響です。科学技術基本法とともに学術基本法を制定すべしという主張をされていて、2つの概念を明確に分けて考えておられます。さまざまな分野の研究者ともよく話すのですが、そのなかで、物理学の分野でも物性物理なんていうのは本当に科学と技術の両側面がありますし、有機化学の分野でも同様です。私自身がここ何年か係わっているのですが、数値天気予報を東南アジアに普及させるという国際共同研究はやはりtechnologyの側面が強いです。個々人でもいろいろな顔をもっているという時代になってきています。今の時代は、研究資金を確保するということも大事なことになってきましたので、地球科学は応用科学的に世の中の役にたっているという側面をアピールしつつ、だけど学術的には新たな発見や理解にこだわっていきたいという、そのように個人のなかでも両面作戦をとらないといけないという状況です。

廣田:尾池先生のただいまのご指摘はまったく同感で、同じことは、例えば受験勉強をやっている高校生で理系・文系という2分法、あれはまったく馬鹿げています。敢えて言えば、文学部志望か経済学部志望かでベクトルの向きは全く違っています。それを一言で文系という分け方をしていることは、若者の教育にとって非常に害を及ぼしていると私は思っております。同じ意味で、余田さんの言われた物理学的な立場から地球の自然を探るということと人間にとって役に立つということとの違いを明確に意識して、どっちが上か下かではなくて、それを研究教育の場に浸透させていくことが非常に大事なことだと思います。ほかにございますか。

原田 朗:数値天気予報について1つ。気象庁が、昨年7月に、数値予報50年の講演会をやってくれました。それに東京大学からお二人の講師が来られました。一人はここの出身者で一人は東京大学の出身です。その講演会のなかに1つ、こういう話がありました。トルネードのような小さな現象もこういうふうに数値実験ができるようになりましたよ、と。利用者の方からすれば、ありがたい話です。では、これは今後、上空の乱気流についてはどうなるのでしょうか?と質問しましたら、前向きの話は返ってこず、気象庁の方にマイクが渡されました。この応答はもう一つでした。気象現場には航空気象という分野があります。それで、全世界で乱気流の予報をしております。ところがこれがなかなかまともな予測ができていないのが現状です。この現場仕事のほかに航空事故調査委員会というのがありまして、そこでこんなことがありました。実際に亡くなった人も出た事例ですが、乱気流に出会って何がなされたかといいますと、実はパイロットが自分で「乱気流」、即ち機体の動揺を起してしまったのです。乱気流は、どのようにして観測するかといいますと、機長が感じて、機長が乱気流があったと報告するわけです。それをもって全世界で乱気流の調査が、また、予報がなされているのですが、今日の話は、気象の分野で、また大気科学の分野で、これから乱気流の観測や研究に注目していただいたら、航空機の運行管理者にとっては,ありがたいことだと思われます。いかがでしょうか。まず、観測をしなければならない。上空の乱気流について観測手段はあるのでしょうか。研究の芽は出てきているのでしょうか、私は不安を感じています。大気科学の研究をなさっておられる方にお訊ねいたしたいのです。

余田:大事な話で、トルネードの予報はすごくチャレンジングだと思っています。防災研などで、領域数値モデルの分解能を100m、10mスケールと細かくしていっていますが、トルネードの予報が決定論的にできるかどうかということは非線形問題としてチャレンジングだと思います。地球規模での高気圧や低気圧の振る舞いは、初期値を与えれば決定論的に予報できるのかもしれませんが、多分、トルネード規模に至るまでのどこかで、確率的な要素が顔を出すんじゃないかと思っています。本当に、夢のような計算機ができたとしても決定論的に予報できないというサイエンスに突き当たると思います。そのようなスケールでは、この辺ではこのくらいの可能性で起きるだろうというポテンシャル予報がせいぜいでしょう。それが大気のもつ基本的な性質だと思います。
 それから、航空気象の話が出ましたが、これは世の中の役に立つ気象の部分です。今日、日々のジェット気流の位置と強さの観測・予報をもとに、ジェット機は毎日の飛行経路を変えて燃費を節約し、航空会社は経済的な利益を上げています。また、ご質問の乱気流ですが、それなりに研究がすすんできています。大気重力波とかの空間的に短いスケールの擾乱がジェット気流のどういうところでどれくらいの頻度で出るかというのはそれなりに予想がつくようになっています。やはりそれは、ポテンシャル予報ですけれども、こういうところでは乱気流が出やすいという情報を出せる時代になりつつあると思います。それから、津田さんのほうがよくご存じかと思うのですが、飛行機自体がレーダーで乱流を観測できて、電波を前に出しながら、飛んでいく先の乱れの情報を得ることができる時代になっていると思います。 津田 敏隆:
あんまりよく知らないんですけれど、乱流と乱気流は違うと思うんですが、乱流を測るプランは結構いろいろあると思うんです。乱流を測定することと全大陸の予測をしてそのデータを使うという流れができているかということには問題があると思います。

廣田:ありがとうございました。時間の制限がございますので、それでは3番目の町田先生のお話についてご意見がございましたらお願いいたします。逆に町田先生、何か言い残したこと等がございませんか。

町田 忍:先ほど副会長の岩崎さんから言われたんですけれども、“京大の各講座の伝統は、いろいろ違うと思うので、アンケートをとると面白いですね”、と同じふうに思っておられたということに興味をもちました。それを含めて、最後に地物教室・電磁気学グループの良き伝統の継承ということを言わせていただきました。私、個人的に継承したいという伝統というのは、あまりたいしたことではないかもしれませんが、思うのは、自由であるということです。私は東の方の大学で育ってやってきましたが、当時の大学は、非常にヒエラルキーが強かったんですね。今はどうかしりませんが・・・。それで、学会等でここの、京大の理学部の先生方、同世代の人達と交流すると、自由に研究をやっていて、非常に羨ましく思ったのを覚えております。そんなこともあって、私はいまここにいさせていただいておりますが、そういう伝統を継承して守っていきたいと思います。ただ無秩序になってはいけなくて、私の場合にはその辺が甘いですから、その部分は気をつけなければいけないと思っております。皆さんは、どんなふうなものを伝統と思っておられるかに興味をもっています。 廣田:ありがとうございました。まさにいまのお話は百年の歴史という議論の一番の目的に沿った議論だろうと思います。それでは時間の都合もありまして、先にすすめさせていただきます。今日を含めて3回の研究会を行ってきたわけですが、最初は過去百年の最初の五十年くらい、その次の三十年くらい、それから現在・未来というふうに話をすすめて参りました。そこで、過去3回の議論を通して、こういう側面が抜けていたとか、もっと詳しく聞きたいとかそのようなポイントがあるでしょうかということです。

大内正夫:町田先生にお伺いしたいのですが、いま太陽黒点数がずっとしばらくの間、落ち着いているということですが、それが変るという情報は聞いておりません。で、地磁気は非常に関連がありますので、そのような点と、それと太陽活動の状況がどのように生成されるか、という問題ですね。非常にこれは、影響・貢献度ははっきりしていますが、現象が非常に微弱でそういう点についの情報が一切ない。いま太陽活動はどのような状況になっているのかわからないので、その点について教えていただければありがたいと思います。

町田:大変難しいご質問をいただきましたが、太陽の表面の活動、これは太陽のなかの対流層の運動に沿ったものが別にあるわけでして、宇宙天気予報などもおおもとにいきますと、対流層の運動と太陽の輻射がどう連動していくか、過去どうであったか、未来はどうなっていくかといったような観点で、研究がすすめられています。そういうなかで重要な太陽活動は、低下でなくて、これから成長期に向って、輻射が増大するはずなんですが、それがちょっと予測とずれていると聞いております。私自身、太陽ダイナモは専門ではないので、正確なことはお答えできないのですが、われわれの社会活動、生命とか、人類の活動と太陽活動が直接結びついていることは明らかなので、非常に興味をもっています。太陽の輻射というのは、光学の可視光、紫外線の部分に輻射のパワーをもっているので、それで気候は変動するといわれていますが、そのほかに、気象学、気候学の皆さんは非常に否定的なんですが、宇宙線が降ってきて雲の反射率を変えて日照に影響し、気温をコントロールするという仮説があります。これは、われわれが関わっているのですが、太陽が活動的になると宇宙線が入ってこなくなって、雲ができにくくなり、温暖化する。太陽活動が弱くなると宇宙線が入ってきて、雲がたくさんできるから寒冷化するということで、大変関心をもっています。新しい方向だと思って、個人的には、そういう宇宙線の効果があるとすると、先ほどのカップリングの問題、大気とその外側の部分とのカップリングの研究が進展するであろうと期待しております。

廣田:いまのお話を私流に解釈しますと、この一連の歴史の議論のなかで、地球物理という枠と少し離れたところの人達との接点という意味で、1回目に加藤先生が宮本正太郎先生のお仕事を紹介されました。その伝統は、いまの花山天文台の柴田一成さんの仕事に繋がっているわけですね。そういうものと地球物理との繋がり、これは余田君の話にもありました。そういう目で時代の流れを見ていくのがよかろうと、私はそう感じました。あと、歴史の議論でこういう側面の議論が欲しかったということがありましたらどうぞ。

市川 洋:この会は初めてなんですが、Webのページは拝見しました。おもしろいと思って来たんですけれど、一番気になったのはですね、社会との関係という視点が殆んどないことです。いまやっぱり、社会の人達には科学に対する不信感みたいなものがあるわけですね。理解がすすんでいないというか、あまりにも科学がすすんでも理解がすすんでいないということで。こういうなかで、やはり百年のなかで如何に社会との繋がりを考えてきたかという視点が非常に重要ではないかという気がしています。そして、そのなかに教育の問題も入ってきて、どういう信頼を得るのかという形のなかで、社会の声を生かすということです。自分は京大をはなれてからいろいろ考えるのですが、この前もノーベル賞をもらった科学者が、偉そうに科学と技術とは違うだろうといったとき非常な反発があった。ああいうことが啓蒙と思っていることが問題ではないかと思っています。そんなに簡単でないことはいっぱいあります。厳しいです。非常に危険なんですね。知的症状を追いかければいいってものではないんですね。知識の健全ということも必要だし、実は何もわかっていないということも言わなければならないとか、いろんなことがあると私は思うんです。こういうこともこの機会に考えていただければ幸いです。

廣田:ご指摘をありがとうございました。さて、この歴史の議論を内輪に留めるのではなく、次世代の若い学生達、あるいは外部の人達に伝えるということが非常に大事だと思います。その視点で世話役の三人で議論してきたのは、どういう形でこの一連の議論を記録として残していくべきかということです。すでにご覧のとおり、1回目の議論、皆さんお話のスライドとコメントとを同窓会のWebをお借りして、とりあえず載せていただいて、2回目も同じようにする予定です。ただし、そうすると見てくださる方が非常に限られてしまう。早い話が、今日、吉田キャンパスでやったので大学院生の方がもっと大勢来てくださると思ったのですが、ほんのわずかしかいない。これは非常に残念だと思います。こういう議論の内容を、いまのWeb上に置いとくというのは、あくまでも仮の姿であって、どういう形でこれを残せば、二十年後、三十年後の人達が読んでくださるか、読むに耐えるものになるかと、その点、ぜひお知恵を拝借したいと思うんです。どんなことでも結構ですから、こういう形で記録を纏めてほしいというご要望がありましたら、この機会にぜひお願いいたします。

田中:同窓会の方もホームページは仮の姿でありまして、実際はやっぱり紙に残しておく、それをなるべくたくさん配るということを目的にしております。ただ、会計的な面がありますので、われわれは内部でも情報はWebとかインターネットしか使えない、という状況がありますので、高等研の方ももちろんそうですが、同窓会としてもやはりそれはご協力いただいて、それをなるべく形に残るように紙に残すことが大事だと思います。

大内:せっかくの機会ですから、研究委員会を設けてぴたっとした体制ですすめていただければ結構と思います。

廣田:竹本さんの側からいくつかアイデアがありましたら、お願いいたします。

竹本修三:いやあ、なかなか・・・。お金のことを考えると事は進まないんですね。ですから取りあえずは、同窓会の下のWebに貼り付けさせていただいて、Web版集録を纏める。何も残さないで消えてしまったら、ちょっとまずいと思いますので、少なくともその形で、tentativeではありますが、残しておく。そこまでは私の責任でやらなければいけないと考えておりますが、いますぐに金を取ってくる能力はないんで、紙の印刷物までは、難しいかなと思っております。

廣田:あと付け加えますと、いま世話人の間で議論しておりまして、講演スライドという形でのプレゼンテーション以外に、やはり歴史を考えるうえで具体的な歴史資料、つまりこの教室にいつの時代にどういう方がスタッフとしておられたかとか、どういう論文が出たか、そういう記録を資料としてきちっと纏めておきたいと思います。地球物理の古い時代の歴史はかなり散逸しつつあるので、これもこの機会に皆さんの協力を得て、きちんと記録として留めておきたいと思っております。

竹本:教室の人事資料は調べればしらべられるのでしょうか。資料としてそういうデータも必要と思いますので、もしそういうものが教室の方で事務的にあるのであれば、主任の方でそういうことを調べていただくと同窓会としても助かりますよね。

田中:私も同窓会に関連して昭和十年頃の歴史があるわけですが、それから学事要綱を合わせてデータを当たったことがあるんですが、昭和十年頃に同窓会のようなものがあったところはずっと歴史が残っていて、中間の頃については知りませんので、学事要綱あたりから調べていかないと、しょうがないんじゃあないかと思っています。

廣田:お約束の時間は過ぎてしまいました。まだまだ議論は尽きないと思いますが、また今日の午後の同窓会や懇親会、その他で皆さん方のご感想やご意見をいろいろお聞かせいただければありがたく存じます。本日はどうもありがとうございました。(拍手)



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