IIAS竹本修三フェロー研究会「京大地球物理学研究の百年(その2)」(2009年11月7日)


総合討論
司会:荒木 徹



荒木徹:それでは前回に引き続いて総合討論の司会をさせていただきます。前回と同じように、今日ご講演をされた方のなかで、この話を抜かしたから追加しておきたいということがございましたら、最初にご発言をお願いして、それから討論に移りたいと思います。まず、歴史を語るときに、いいことばかりがでてきて、至らなかったことは省くという傾向があったのですが、それではまずいと思いますので、至らなかったことも含めて総括し、それを次世代に伝えるということが重要であろうと思う訳です。その点、加藤先生が行き詰まり、打開、挫折、克服という言葉を含めてお話ししてくださったのは、歴史認識として大変よかったと思います。また、廣田先生は、科学研究における「国際性」とは何かという新しい観点からお話をしてくださいました。ところで、今日の午前中からのお話に出てきましたように、京都大学の地球物理では、“観測を大切にする、データの質を重視する。”という伝統があったと思います。これは、私も学生のときに言われたことですが、それだけではいけないという批判もあります。だから、まずそのことからお話しいただけますか。

加藤 進:ある先輩は、観測できないものは研究できないというか、科学の対象にならないと言うんです。でもどうなんでしょうか。宇宙論なんていう分野では、観測できない世界を研究するんですよね。そういうものもありますが、地球物理ではやはり観測が基本です。観測は重要だけれども、そこに長谷川先生の発見した事実の価値というのがありますが、それに物理の裏付けがないと学問ではない。そこが大事なことです。

荒木:観測の重要性は否定しないのですが、例えば志田先生が「生半可なデータで論文を書くな」と言われたことを伝聞として聞いております。

加藤:それは「観測の価値」ということですね。

住友則彦:今の話と似ているのですが、私が学生・院生時代から助手になりたての頃に、上の先生から、お前は、一生懸命、観測、あるいは、実験をやれ、そしてそのデータを後になって誰かが使っても安心して使えるようなデータをとれ、と植えつけられたことが、研究生活を振り返ってみると確かにあります。後に私がある仕事をして学位論文を仕上げたんですが、そのときに得られた観測事実を説明するためにモデルを作ったんですけれども、それがなかなか上の先生に認められずに苦労しました。ずっと後になって、南カリフォルニア大学でもう亡くなられた安芸先生にお世話になったことがあるのですが、安芸先生から「京都はまだモデルを作らないのか」と言われました。安芸先生や東京大学の方々からは、「京都はいい観測をする。しかし、モデルを作らない」という風に見られていたと思います。われわれが若い時代に、“モデルを作ることは好ましいことではないんだ”、という教育環境で育ったという認識がありますが、私が学生を指導するようになってからは、モデルを作れと学生には言ってきました。そしてモデルを作ったら、いろんな人に議論してもらえ、そこでモデルが間違っていたら修正できるし、新しい発展があるかも知れない、と言っています。何となしに、こういう観測事実がありますよ、ということだけを言って回っても仕方ない、と申したことがあります。

川崎一朗:前回の島田さんのお話を聞いて、目から鱗が落ちたような気がしたんですが、京都大学で高圧の実験を始めたのは、志田先生は深発地震があるかも知れないということで、ではそれがどうして起こるかを確かめたいということが動機であったということですね。高温・高圧の状態で実験的にそれを調べたいということだったと思います。地球科学である以上、観測が大事だということは、議論の余地がないと思いますけれども、志田先生ご自身は、観測に加えて物理が大事であると考えておられた訳ですね。その考えが残らなかったことが問題であると思います。

淡路敏之:すみません。観測には物理がないということですか?(笑)

川崎:少なくとも今の地震学では観測のうえから物理的な推論をやっています。

淡路:加藤先生のお話で「物理の裏付けのない観測は意義があるんですか」ということが出てきましたが、“物理の裏付けのない観測”というのはどのようなものを考えておられるのでしょうか。私は逆に、今の物理では説明できない観測事実が科学を進歩・進展させてきたと思いますので、観測された結果を現状の物理で説明できるかできないかが大事なことだと思います。それをぬかした形で観測するのは観測主義者で、それがいけないとおっしゃるのは非常によくわかります。で、アメリカ人の海洋学者というのは、基本的に説明できない物理というのは何なのか、そういうものを見出したいという立場から研究をすすめています。私はアメリカ人に非常にはっきり言いました。1番スマートな人間は理論をやる、2番目は観測をやる、そして一番バカがシミュレーション。(笑)

荒木:観測をきっちりやって事実を物理的に明らかにするということがまず大事だと思います。

淡路:いや、観測をやる人はアメリカでも、ものすごく少ない。日本の観測はそれに比べてもかなり劣っている。それは認めます。そのことと、つまり“観測一般”と“観測と理論のあり方”の関係は、本来の意味でちがいます。

深尾昌一郎:観測の問題は、何をどこでどういう測器で観測するかということが重要だと思うんですね。最近はシミュレーションでいろんなことがわかるので、若い人が実験をやりたがらないという話をよく聞きますが、実験と理論は螺旋的に発展するものだと思います。両方が大事なんですね。そこで、伝統を踏まえてという考えも必要になってくると思います。

加藤:観測で重要なことは、意識してそれをやるかどうかということです。何にも知らない人が新しいことを見つけて、その名前が残る。それも価値関係ということでおかしいなという気がします。気象力学の関係では観測・測定が一段低いものだと考えられていたようです。観測面からは重要な学問的貢献がないと思われていたのですが、科学の歴史では、観測、測定の成功が時代の先端を切り開いてきたんですね。

荒木:学生の頃に観測すれば何か出てくると言われたんですが、何も出てこない場合もありうる訳です。そういうときに学生をどう指導するかということが問題ですね。

田中寅夫:観測の件では西村英一先生にお世話になったのですが、私が子供の頃に近くで有名な“椋平虹”というのがありまして、私も将来、真面目に地震予知をせんといかんと思っていました。大学に入ってからも地震予知をやりたい、とくに前兆現象を追いかけてみたいと思いました。前兆現象がなければ地震予知には繋がらないわけです。そのためには地殻変動が一番有望であろうということで、ここに三雲先生がおられますが、三雲先生といっしょに、今日の大谷さんの話にもでてきましたが、和歌山の大浦観測所というところで、傾斜計、伸縮計の観測を始めた訳です。和歌山は、地下数kmのところでたくさんの地震が起こっていましたし、震源の真上で高感度の観測をすれば、きっと数時間、数分、数秒前に異常な前兆変化が捕まえられるだろうと思っていました。しかし、当時の世界で最高感度の計器で観測しましたが、どう調べていってもこれはという前兆現象は見つけられませんでした。地震時のCo-seismicな変化は捕まえましたが・・・。その頃、西村先生に言われたことは、地震の前兆現象を狙った地殻変動観測をやってもよいが、地震予知では論文が書けないだろう。飯が食えないよ。だから地球潮汐がしっかりとれる観測をやって、地球潮汐の論文を書け、ということでした。結局その通りになりましたが、当時私がとったデータを、いま別の人が使おうとしても、ちょっと無理でしょう。

荒木:観測には1カ所だけの観測で意味のあるものもありますが、ネットワーク化しないと意味のないものもあります。地球電磁気関係のデータは主に後者です。

住友:田中さんが発言されたことに関して、地震予知計画というプロジェクトが30年以上前から走っていました。私は直接ではなかったのですが、後の10年くらいはそれに関係しました。これは、前の廣田先生のご講演のときに、温暖化というような現象の研究を大学がやるべきでないというご意見もありましたが、地震予知についても同じような議論があった訳です。それを京都大学が観測を重視して地震予知計画に一番真面目にとりくんだということが、地殻変動観測だけでなく、地震観測も含めて、本来のEarth Scienceの研究の方向性を見失ったか、そこに向ける力が不足したのではないかと今になって思います。

荒木:今のお話は、地球物理学教室としてもプロジェクトにどう関わっていくかということで大変重要な事だと思いますが、地震予知に関与した他の先生方のご意見はいかがでしょうか。

三雲 健:まあ、大変難しい問題ですね。私も地震予知計測部門という大そうな名前の部門を担当しておりましたけれども、目標と実際に何をやるかということは、私自身のなかでは区別して考えておりました。地震予知はかなり遠い将来の目標であり、地震予知に近づくためには、地震の基礎的なこと、つまり地震発生の物理をもっとよく知らなければならないということで、私の研究室では地震発生論を主に研究しておりました。必ずしも地震予知のための観測一辺倒でやってきたという自覚はありません、お叱りをうけるかも知れませんが(笑)。その当時、地震がどのようなメカニズムで起こるかもあいまいな時期でしたから、先程の温暖化の議論と同様に、基礎的な理解なしに予知を言っても、そこには飛躍がありすぎるということで、私の研究室を出た院生の多くには、地球内部の物性とか地震発生論を中心とした基礎的な研究やシミュレーションをやってもらいました。

石原和弘:前回の研究会で須藤さんもおっしゃったように、火山の場合は、それぞれの火山の特徴を把握するために、自分でほとんどのデータをとるしかないんですね。一方では佐々先生がだいぶ前に言われたんですが、「火山研究は実験である」ということです。モデルを仮定し実験で予測する。その証拠を現場で得るんだという考えです。同じようなことで永田武先生もよく桜島に来てくださったのですが、噴火が起きると横坑で観測している傾斜計、伸縮計のデータを出せ、と言うんですね。そして噴火のストーリーを説明し始める。感心していると “俺はここの職員じゃあないんだ。お前は職員だろう。”と言われる。佐々先生もそうでしたが、「生の記録でわかるような、そういう記録をとれ」ということをおっしゃったんです。「モデルに基づくイメージをもって観測データを観ろ」ということも教えられました。これが大学の研究だと思いました。漫然と観測を続けているだけではいけないと思っています。

加藤:地震予知の問題は、今では予知は難しいということになっています、私は随分長い間、文部省の測地学審議会に属していたんですが、そこで地震予知計画が議論されました。予知計画の見直しに一番反対したのは文部省の役人だったんです。既得権で決まっている予算が減るのは困ると言って。審議会ではいろんな議論がありました。ある委員は、できないといわれていたものができるようになることもある。飛行機が流体力学では飛べないと言われていたのが飛べるようになったじゃないかなどと関係ないことまで言ったりして(笑)。でも宇宙関係につぎ込んだ予算に比べれば地震予知の予算はたかが知れている。基本的課題の研究には、もっと金をつぎ込んで、根本的な科学が進めば、地震予知はできるようになると思います。そうでなければ、地震学はサイエンスではないのです。

竹本修三:観測に物理がないわけではありません。われわれがやってきたのは物理的な観測ですから。ただ、先ほど、廣田先生もおしゃられたように、京都大学の場合は、観測から穴倉に入りこんでしまったというケースが多いのが問題だと思いますね。1メートルずらして同じ型の計器を2台置くと、違った結果が出たりして、これは何だろうと考えているうちに、どんどん細かいところに話がいってしまう。外へ出ていかずにますます狭い穴倉に籠ってしまう。これはこれで、結構面白いことがいっぱいあるんですが、大局的なモデルの構築にはつながらない。その点、よそから来られた川崎さんなんかは、そういうどろどろとしたしがらみがないから、あっさり伸縮計のデータからスロー・アースクエークなどという大胆な話を構築する。なるほどなあ、そういう見方もあるのかと思うけれども、長年観測坑に籠って実際に計器のお守をしていると、ローカルなことが気になって、なかなかそういう発想がでてこない。得られた観測データのPhysical interpretationで、いろんな可能性を追求することがやはり必要ですね。

深尾:加藤先生が測地学審議会の地震予知のことをおっしゃったのですけれども、私は文科省の科学技術・学術審議会測地学分科会の会長をしております。今年度から新しい地震・火山噴火予知を一体化した新計画がスタートしております。私達は特に地震予知が学問的、学術的に容易ではないということは充分承知しているわけですが、予知につながる基礎的な観測が今こそ大事だという共通認識のもとにこの計画を進めております。それと同時に、地震予知にも「地殻活動予測シミュレーションモデルの構築」のように淡路先生のお話に出てきたようなデータ同化の手法が導入され始めておりますので、皆さん期待していただきたいと思います。

川崎:将来のためにちょっと話をします。僕が育ったのは東大地球物理の浅田研究室ですが、観測をやる人や理論の人が入り混じっていて、いろんな人と議論しながら、interactionしながら、研究をすすめてきたわけです。京都大学ではこのあたりが弱かったように思うんですね。京都大学でもこれからの30年は、観測の人や理論の人やいろんな人を採用して、幅広い議論や協力体制ができるような環境をつくっていただきたいと思います。

田中:一言だけ。さっきの話は、私の十数年まえまでの話でありまして、現在の状況では、上は、先ほど大谷さんの話にありましたように、GPSのデータから刻々の地殻変動が捉えられるようになってきていますし、連続観測では、深いボアホールの底で観測すると、ほとんど気象影響のない非常に質の良いデータが得られています。また、私はきっと地震予知は直前の予知も可能になると信じています。

淡路:研究科と研究所とを同じ舞台で話をしても話にならないと思いますね。とくに法人化以後は、温暖化や地震予知の研究を研究科でやるのは難しくなってきています。研究所がそういうことをやれるかどうかどうかとは、その研究所がどう決定されるかという問題ですね。だからこれ以上議論してもしょうがないと思います。また、ここに尾池先生がおられる前で申し訳ないですが、法人化になってから、日本全体の学術体制は根本的に変わってきているんですね。要するに法人同士が競争的な関係に入っているんです。従前は、日本全体の学術体制が全体として世界とどう戦うかということで考えられていたと思うんです。例えば、東京大学の海洋研究所は全国の共同利用研ということで、やはり全体をどうするかということで危惧されていたけれども、いまの海洋研は共同利用でもなんでもないんです。東京大学の1部局なんですね。また、東大の小宮山総長なんかが「世界と戦える東京大学でいく」という考えをバーンと出しているんですね。日本のなかの大学全体をどうするかという観点は抜け落ちている。そういう状況のなかで京都大学の研究科や研究所はどうしていくか、ということです。もう環境が変わってしまっているので、これからどうするかということですが、研究科からみれば、そのなかで院生を混乱の場に巻き込んでほしくないということで、とくに理学研究科では危惧しております。以上のような状況です。

荒木:地球物理学教室の伝統である観測とデータの蓄積の問題について、もう少しご意見を伺いたかったのですが、問題が難しくて、なかなか決着が着きません。そこで、この問題については、一応これで打ち切りたいと思います。

田中:淡路先生にお尋ねしますが、現在では海洋研の船は非常に使いにくい、使えない、ということでしょうか。

淡路:海洋研では船を利用しているけれども、船はございません。全部JAMSTECの所有になっています。

荒木:そのほか、ございませんか。

廣田 勇:最後に話が出てくるのかもの知れませんが、この研究会は2回でお終いですか?それとも、まだ続くのでしょうか? というのも、気象関係では、前回の山元先生が最初の50年、今日私がそれに続く30年の話をしたわけで、いわば、古代史と中世史の話だったわけです。そこで次は、現代史を現職の方にぜひ話して欲しいと思います。そのときに、昔はむかし、今はいま、と時代の差ということで、間を切ってしまうと、歴史の議論にはならないと思うのですね。科学の連続性、つながりを意識して、それを踏まえた一番新しいところまでの話をやっていただきたいということです。そういう意味で、敢えて淡路さんにお尋ねしますが、今日、すばらしい話をされたわけですが、例えば、国司先生が考えておられた海洋学と今日のお話とにどうつながりがあるのか、あるいは意図的に断絶があったのか(笑)、そういうことをお聞きしたいと思います。

淡路:すみません。速水先生とか、国司先生は、最初の岡田賞を受賞されたりしたことは、存じあげているんですが、私自身、重なるところがよくわかりませんので、はしょらせていただきました。速水先生はいろんなことをやられました。木をとってきてその年輪から気候変動を探ったり、白浜に海象観測塔を建てたりされましたが、大気と海洋の相互作用は、速水先生の二番弟子で東北大学に行かれた鳥羽先生がやっておられます。また、速水先生は、最後に国司先生には沿岸海洋学のことやりなさいとおっしゃったと聞いております。これで海洋は、古代史、中世史、現代史を終わったと考えています。

竹本:先ほどの廣田先生のご質問ですが、私がイメージしておりましたのは、「京大地球物理学研究の百年」研究会を6月にやって、なかなかそれだけでは終わらないので、少なくとももう1回過去をたどる研究会をもちたいということで、今日の第2回研究会に至ったわけです。そこで、できれば年度内にもう1回、研究会を開いて、これまでの2回は過去百年の歴史をたどることがメインでしたが、3回目は、現職の教授の方に、これまでの歴史を踏まえた現在の到達点と将来の展望を語っていただけるといいのではないかと思っております。ただ、年が明けて2月か3月ということになると、同窓会のタイミングと重なってしまいますので、田中同窓会長にお願いして、同窓会とジョイントさせて開催させていただけるとありがたいと考えております。そういうことを最後に提案させていただこうと考えておりましたので、どうかお考えください。

荒木:第3回の研究会についてはどうですか?

加藤:同窓会とこの研究会とでは趣旨が違うと思うんですね(笑)。できればやっぱり別にやった方がいいと思います。

竹本:この研究会に若い人の参加が少ないのが気になっていて、京都でやれば学生、院生も参加しやすいのではないかと考えたことも同窓会とのジョイントで開催するという提案の理由の一つです。

町田 忍:私が今の教室主任で、若い人を大分誘ったんですが、高等研は敷居が高いみたいで、なかなか乗ってきませんでした。そこで、京都でこの研究会を開催するというご提案もよろしいのではないかと思います。

荒木:そしてら、次回は京大でやるという方向で、皆さんよろしいでしょうか。

尾池和夫:所長としてちょっと話をさせていただきます。この研究所に竹本先生をフェローとしてお招きするときに、研究は何をやっていただいても結構です、ただしお金がかかることはできません、と申しあげました。そしたら竹本先生が、「今年は志田先生が京都で地球物理学の研究を始められてからちょうど百年になるから、それを記念した研究会を高等研で開こう」という非常によい企画を立ててくださいました。そこで今日も大変よいお話をいろいろ聞かせていただいたわけですが、高等研究所の設置目的を尋ねられたときに、私はどういう説明をしているかというと、高等研は、国が金を出さないような研究をやるところだと言って、本当に国からはわずかなお金しかいただいていない。まあ、5千万あれば20いくつかのプロジェクトを走らせることができるわけで、その目的は何かというと、ここでではなるべく異分野の人に集まっていただいて、その議論のなかから新しい学術の芽を育てることを目指しています。昨日も科研費の要求書を出したところですが、そこには、新しい学術の芽を育てるということに特化して研究所の目的を書いてあります。それから言うと、地球物理に関連するような分野で走っているプロジェクトはあんまりないんですね。いろんな分野があるんですけれども、どちらかというと、人間が作ってきたもの、芸術、文化、言語とか数学とか、そういうものについての活発な議論が行われています。また、物理学に関しては、昔は自然の観察が主だったんですが、今は新しいモノを作るということが幅を利かせてきておりまして、自然に存在しないで新しいものをナノテクを使って作るとか機械を作るとかが主流になってきています。今日の午前中に言いましたが、「天地人」というプロジェクトは自然をどう見るかという観察することを中心に据えているわけですね。さっき観測という話がでてきたんですが、基本的には観察をする。宇宙とかをひたすら観察するわけですが、地球でもそうですね。そういう分野に関連するプロジェクトがちょっと弱いですので、今日のような議論を発展させて、これまでの気象学を踏まえて、未来の気象学でここから学術の芽を育てていくとすると、どういうものが有りうるか、というようなことをベテランの先生に議論して欲しい、つまり名誉教授の先生を中心に。私はいま、来年度からスタートする高等研学術道場というのを考えておりまして、それには高等研で走っているプロジェクトのベテランの先生方の議論に意欲的な博士後期課程の院生に参加してもらって、そこから新しい芽を育てようとしています。必要な旅費は支給するということで、公募しようとして思っています。どんなテーマでもいいからそこに飛び込んで議論に参加したいという人を募集しようとしています。若い人が今日のようにベテランの先生方が議論している場に加わって、その雰囲気に慣れていくとは大事なことだと思います。大学ではそういうことができないですね。この研究会は竹本先生が、京大地球物理学研究の百年ということで設定してくださったんですが、京大にとらわれずに地球物理学研究の将来に向けた新しい芽を見つけ出して、国への提言を纏めてくだされば、それはそれで、高等研の新しいプロジェクトとして成り立つと思います。同窓会も結構ですが、ここで同窓会をやるということは、ここはちょっとそういう場所ではあませんので、具合が悪いと思います(笑)。まあ、この研究会を自由に発展させていただければよいと思います。

竹本:今年だからこういう研究会ができた。つまり、志田先生が京都で地球物理学研究を始められてからちょうど百年ということで、それを記念して、この研究会を企画しました。百年記念という研究会は、一応次で区切りにしたいと思います。それで、第3回の研究会ですが、タイミング的には2月くらいになってしまって、同窓会と日程調整をしなければならないなどの問題があります。また、両方やることは大変なので、いっそこの2つをジョイントさせて開催させていただきたいと存じます。また、せっかく高等研でこの研究会を開催して、京大地球物理学の研究の歴史が大分明らかになったのですから、これをさらに発展させて、京大に捉われずに、地球惑星科学の将来に向けた新しい研究の芽を見つけ出す高等研の新しいプロジェクを立ち上げることができればよいと考えております。

荒木:それでは、そういうことで、時間も過ぎておりますので、今日の研究会は、これで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

竹本:どうもありがとうございました。それでは大分遅くなったのですが、タクシーは呼んでいませんので、この前と同様に、地元の町田先生のあとについて(笑)、懇親会場のあるけいはんなプラザホテルの方へ移動していただきたいと存じます。



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